ゆるおに はみ出し207

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はみ出し207
「鬼たちの会談 ~いわゆる『普通の食品』と、女子力について~」

一季に一度の大宴、下座寄りの一角――
沙羅、斎観、白威、西帝


斎観「え? 沙羅ぴっぴ油揚げ食ったことねえの?
西帝「そんなことありますか?」
白威「そう大きい声で言うものじゃない。……まあ、なくもない話だろう。食い道楽でもなければ、愛人に付き合う時くらいしか口にしない気もする。沙羅さんは男に合わせるような方でもないだろう」
沙羅「…………だいたい、『油揚げ』という言葉は何も示していないだろう。何を揚げているんだ」
西帝「なんで名称にケチつけるんですか。そこは別にいいでしょう」
斎観「食ったことねえってこたねえでしょう。味噌汁とかに入ってるのを、気付かずに食ったことはあると思うがなあ」
沙羅「味噌汁というものをほとんど口にしたことがない」
西帝「そんなことありますか?」
白威「一族においては、意外と沙羅さんのほうが多数派かも知れない。斎観が鰹節を作るのにハマッていた時期があるから、斎観や俺は出汁を引いて……よく味噌汁を作っていたから、君も食べる機会が多かったと思うが。神無様に出したことはないし」
西帝「……言われてみると、兄貴と白威さんが作ってくれるから食ってたってだけの気もします。外で食う機会は、確かにそんなにはない、かなあ」
沙羅「そうだろう。そもそも私は味噌が苦手だ。豆が苦手なのかも知れん」
斎観「ああ、じゃあ味噌汁は天敵ですね。豆腐と油揚げの味噌汁とか、トリプル大豆だし」
白威「俺は納豆が食えない」
西帝「食べたことない。臭いがダメで」
沙羅「臭いもよく知らない」
斎観「マジかお前ら。俺が少数派か」
西帝「栄養にもならないものを、イヤだなーと思いながら口に入れる必要がないからなあ。兄貴は納豆食えるの?」
斎観「普通の納豆は食える。ひきわりは苦手だな」
沙羅「ひきわり、とは」
斎観「要するに、細かい納豆です。挽いた大豆を発酵させるんで」
白威「それは知ってるが、味は同じだろう。普通の納豆が食えるのに、なぜひきわりが駄目なんだ」
斎観「納豆って要するに豆の発酵食品ってことがわかってるから、ギリ食えるみたいなところあるんだよ。豆の形じゃなくなると、なんか臭くて茶色いペーストになるっつうか」
白威「……絶妙に嫌な形容をするな」
沙羅「悪い意味で、なんとなく伝わってきた」
西帝「ひきわり納豆の会社に訴えられるぞ兄貴」
沙羅「私はゴーヤが苦手だな。調理した者が可食部を間違えたのかと思った」
斎観「油揚げ未経験なのに、ゴーヤ経験はあるんですか」
西帝「言い方」
白威「中庭でゴーヤを育てたら、ものすごく増えて、処理に困ったことがあるな」
斎観「あったな。俺もお前もそんなに好きでもねえし。観賞用だったんだが、増えすぎて弥風様に怒られたな」
沙羅「そんなことまでしているのか」
西帝「兄貴と白威さんはやってるよ」
沙羅「あ、裏庭のあのゾーンか? お前たちのものだったのか。あれは何を作っているんだ?」
斎観「今は、じゃがいもとホウレン草ですね。夏はトマトもやってます。トウモロコシもやりたいんですが、『熊が来る』っつって刹那様が良い顔しないんだよなあ」
白威「トマトはどんどん成るので、自由に収穫してもらって構わないのですが、あまり人気がないようです」
沙羅「周知されていないだけだと思うが。良いのなら収穫してみたい」
白威「今はシーズンではありませんが、夏はぜひどうぞ」
斎観「トマトは毎年違う位置に作ってるから、気付かれてないのかもな」
西帝「春によく大仕事してるよな。なんでわざわざ植え替えてんの?」
白威「連作障害といって、同じ土で育て続けると、病気にかかったり味が落ちたりするんだ。ナス科の野菜は特に難しいから、毎年場所を移してる」
沙羅「農家か?」
斎観「趣味ですよ。ぼちぼちビニールハウスを建てたいんですが、弥風様の許可が下りねえだろうなあ」
西帝「趣味が枯れすぎかつ本格的すぎじゃないか?」
斎観「白威と相談しながら土を耕してるとき、老夫婦かな? と自分でも思う」
白威「夫婦に設定するな。……土を触って植物を育てるのはいいよ。動物を飼っているのに近い気もする」
沙羅「……お前たちは趣味が合うようには見えないが。どちらも好きでやっているのか?」
斎観「元々は白威の趣味なんですよ。面白いかなと思って手伝ってるうちに馴染んできました」
西帝「老夫婦か?
白威「果樹もやりたいと思ってる」
沙羅「凝り性か」
斎観「生産量と消費量が釣り合う果樹だと、イチジクとかかねえ。そのまま食える果物なら捌ける気がする」
白威「イチゴも良いな。野菜だが」
西帝「野菜? イチゴが?」
斎観「木じゃなくて草のツルに成るからな。育てる側からすると完全に野菜だ」
白威「消費量で言うなら、梅もいいかも知れない。梅酒を漬ければ誰かが飲むだろう」
沙羅「……農園ができていくのか。良い趣味だとは思うが」
斎観「なんだろうな? 俺たちストレス溜まってるのかね?」
白威「……滅多なことを言うな。……野菜はともかく果物は、結局買った方がうまいから、作ったところで神無様に差し上げられないのが難点だな」
西帝「新鮮な方がうまいんじゃないの?」
斎観「いや、専門家が作った高級品の方がうまい。当たり前だが。ただトウモロコシについてだけは、作ってる全員が全員、採りたてが一番うまいと言ってるから、作る価値があると思ってる」
白威「収穫した瞬間から劇的に糖度が落ちていくからな。……刹那様を説得するのが目下の課題だ。いっそ離れた場所でこっそり作ってしまうか」
西帝「脱法栽培か……」
沙羅「話を聞いていると、大変楽しそうな気がする。私も何か育ててみたい」
斎観「歓迎ですが、ミミズとかアブラムシとか平気なタイプですか?」
沙羅「辞退する
白威「慣れてくるものですよ。土を耕している時にモグラを殺ってしまうと、多少ショックを受けますが」
西帝「モグラとかいるんだ。実物って見たことない」
斎観「根をダメにする害獣だから、いると困るんだが、フォルムが可愛いんだよな。なるべく殺さず遠くに投げるようにしてる」
沙羅「野菜を作って、その野菜を調理しているのだろう? 羨ましい。そういう暮らしをしてみたい」
斎観「同じ家屋敷に生まれて育ってる血族なのに、なんで沙羅ぴっぴだけ、お貴族様みたいなオーラ発してるんだろうな。庶民の暮らしに憧れて、下男と駆け落ちするけど、結局は下々の暮らしに耐えられなくて家に出戻るお嬢様って感じするよな」
西帝「白威さんも土いじりってイメージじゃないけどな。こっちは駆け落ち成功のパターンかな。下女とハッピーエンド」
白威「なんとなくどっちも悪口じゃないか」
沙羅「……しかし。料理のひとつもできない女は、そのように言われても仕方ないのかもしれんな」
西帝「意外な反応」
斎観「料理なんか娯楽でしょう。男だの女だの気になさるタイプでもないと思ってましたが」
沙羅「……どうも私のイメージは一人歩きしているようだが、料理や裁縫くらい身につけたいと思っているし、女としての意識も持っているつもりだ」
斎観「裁縫は東雲の担当だと聞いてますが。というか、克己様の身の回りの世話はあいつがほとんどやってると」
沙羅「……それは。……私が不器用だから」
西帝「典型的なお姫様ですね」
斎観「最初はみんな不器用ですよ。それを克服するやつが器用になって行くんでしょう。その結果、東雲の方が女子力高いじゃないですか」
沙羅「…………何も言い返せない」
西帝「向き不向きあるし、お姫様ならお姫様として生きるってのも、悪いことじゃないと思いますけどね。万羽様とか」
斎観「料理も裁縫もまったくできなさそうだな」
沙羅「………………私は万羽と同じ種類の女か?」
白威「ご自覚がなかったのですか」
沙羅「…………料理を始める。……最初は何だ、包丁か? 包丁を買うのか?」
斎観「包丁は厨房にありますから、新調する必要はないと思いますよ。初心者向けの料理本とかたくさん出てますし、そういうの見るのもいいんじゃないですか」
西帝「俺が教えてやるよ、とか言えよ」
斎観「教えられるほどの腕じゃねえし、親父に惚れてる女にフラグ立てに行っても無駄だろ」
白威「……この思ったことを全部言う男は放っておいて。……わからないことがあれば教えますよ。大した腕ではありませんが」
沙羅「ありがとう。ハッピーエンドを迎えられる女になるよう、挑戦してみる」
斎観「眩しい」
西帝「意外に白威さんとくっついたりするんじゃないか」
沙羅「しない」
白威「しませんね。びっくりするほど釣り合わないので」
斎観「沙羅ぴっぴに釣り合う男がそもそも居ねえ気がするな。油揚げを食ったことねえ深窓の令嬢に釣り合う男って、どんなのかよくわからねえけど」
西帝「桐生が惚れてるんだろ? 意外に行けるんじゃないか、若さと勢いで」
沙羅「ふふふ。可愛らしいとは思うが、男という感じではないな。あの子が土仕事などをしていたら、意外性でグッと来るかも知れん」
斎観「白威にもグッと来てやってくださいよ」
白威「別にいい。双方がピンと来ていない見合いを推そうとするな」
西帝「家庭菜園も料理も、かなり珍しい方の趣味だよな。桐生も菓子くらいは焼くんだろ。俺も実は、クッキーが何からできてるかとか知らないレベルだ」
白威「粉・糖・油脂・鶏卵を混合して焼成する」
斎観「なんで分析結果みたいに言うんだよ」
白威「製菓は化学だが、クッキーはかなり材料や分量に融通が利くので、初心者でもそう失敗しない。最初に手を付けるならお勧めです」
沙羅「そうなのか。……まあ軽い菓子なら、焼いても誰かが食べてくれる、かな」
斎観「自家製のクッキーは独特のいい匂いがするんで、神無様にも差し上げますよ。克己様も喜ぶんじゃないですか。親父は洋菓子あんまり食うイメージねえけど」
沙羅「食べないのか。……そうか」
白威「簡単なものから作っていって、腕を上げてから本命に挑めばいいのでは?」
斎観「女子会の作戦会議か」
西帝「白威さんは俺の誕生日にいつもケーキ焼いてくれるから、一族での女子力はトップクラスだよ」
沙羅「羨ましい……。私も誕生日にケーキを焼いてほしい……。いや、駄目だな。ここでは『私も誰かの誕生日には焼こう』と考えるのが女子力というものだろう」
白威「そうですね。女子力道の第一歩は、思いやりの心です」


刹那「なんかあのへんから『女子力』とかいう言葉が聞こえてこないか?」
此紀「世相でも斬ってるんじゃないの?」
刹那「スイーツ斬りか」
此紀「……世相を斬りそうな面子でもないわね。空耳なんじゃないの」
刹那「おじいちゃんだからな」
此紀「そうね」
刹那「そこは優しく『まだお若いじゃないですか~!』と笑い飛ばしてくれるくらいの女子力を発揮してほしい」
此紀「女子力がどういう言ってる女をバカにするくせに、いざ冷淡に対応されると求めてくるの、一番ダメな男じゃない」
弥風「刹那が斬られてるじゃないか」





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