ゆるおに はみ出し208

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はみ出し208
「会話」


「…………」
「……珍しいな。お前が来るとは。なにか用か」
「僕たちの術は、妖しのそれじゃない。舶来の技術がそうではなかったように」
「そうか」
「……お前だけだ。お前だけが妖しの者だ。お前の、薄っ気味悪い予言だけが、どう考えても説明がつかない。お前はラプラスの化け物だ」
「ラプラスは10kmのタマゴから出るぞ」
「誰がポケモンGOの話をしてるんだ殺すぞ。……お前は、他にも薄っ気味悪い力を持っているのか」
「何の話だ」
「お前はこの世の摂理を越えている。たとえば――ハンゴンは」
「ハンゴン?」
「ソセイのことだ」
「ソセイとは」
「死んだ者を生き返らせることだ」
「反魂と蘇生か。……」
「できるのか」
「できるわけはない。蘇生はともかく、反魂は無理だ」
「な、何が違うんだ。蘇生はできるのか?」
「死骸を動かすことはできるやもしれん。テレキネシスの要領で」
「超能力は使える前提なのかよ。あとお前、『チョコレート』以外のカタカナ語を発声できたのか」
「お前こそ、反魂とはな。そんな概念を持っていたか」
「便宜上の言葉だ。魂が存在するかどうかの話じゃない」
「いずれにせよ、お前が指しているのは耶蘇教で言う復活で、巫毒の死んだ奴隷を作っても意味はないのだろう」
「テレキネシスは言えるくせに、ブードゥーの発音はぎこちないのかよ」
「…………」
「…………話を戻す。死骸を動かすことはできるんだな」
「知らん。試したことがない」
「お前と話してるとイライラしてくる。可能性はあるんだろ」
「できるやもしれん。試すか」
「死骸なんかないぞ」
「そこの大トトロのぬいぐるみで。……」
「…………」
「……無理だな。テレキネシスは使えん」
「なんでぬいぐるみも動かせないのに、使える前提で喋ったんだよ。お前ならできるかもしれないと思って真面目に聞いちゃうだろうが」
「よく喋るな」
「お前が澄ましたツラでボケ倒してツッコミを強要するからだろ!」
「ポケモンGOはレベルいくつだ」
「僕はやってない。万羽がやってるからわかっただけだ」
「誰を蘇らせたかった?」
「できないのなら、お前には関係ないことだ」
「そうか」
「お前は他者の死期も中てる。全員の分がわかるのか」
「言えない」
「言えない? ……わかるが教えたくない、っていう意味か?」
「仕組みそのものを言えない」
「説明できないような不可思議なシステムってことか?」
「違う。説明してはならぬと、神から命じられている」
「神が出てくるのかよ」
「嘘だ」
「てめえしまいにゃ首を落とすぞ」
「ひらめきは偶然だ。すべてがわかるわけもない」
「ふん。実績がなけりゃ、胡散くさい妄言なんか信じやしないけど、あいにく巫女様のご神託は百発百中だからな。忌々しいことに」
「水晶玉で占っている」
「…………」
「嘘だ」
「いい加減にしとけよ」
「本当はタロットカードだ」
「そろそろ限界だからな」
「タロットに詳しいわけでもないが、適当に札をめくると、それらしい暗示が出る。最近気付いたことだが」
「……は? タロットは本当に使ってるのか?」
「従者が買ってきたのを試したら、符合した。ある程度は使える」
「待て。……かつてはひらめき待ちだったが、タロットカードを使うと、任意にひらめきを下ろせるってことか?」
「そう言える」
「なんでそういうのを黙ってるんだお前は」
「黙っていろと神から」
「スベッたギャグを天丼するのやめろ。精度はどうなんだ。例によって百中か」
「ひらめきと違って、暗喩だからな。解釈を間違うこともある」
「精度は少し落ちるってことか。解釈さえ間違わなきゃ、望んだことを占えるのか?」
「知らん」
「なんでそう無関心なんだお前は。予知だぞ。強すぎるアドバンテージだろうが。試行錯誤しろ」
「未来を知って何の意味がある」
「事故を予見できりゃ回避できるだろ」
「1日回避したところで、2日目に同じ事故が起きる。それを回避しても3日目に」
「……そういうものなのか?」
「そういうものだ。役に立つのは、失せ物のありかの暗示くらいだ」
「ひらめきは極めて精度が高いそうだが、それはどういう形で訪れるんだ」
「なんとなく感じる」
「解釈不要か?」
「解釈しなかった結果、お前の言う百中になっている」
「ひらめきは言葉か? 映像か?」
「どちらとも言えない。予感だ」
「ふうん。……」
「何を知りたい? お前の死期か。万羽の死期か。刹那の死期なら此紀の方が詳しいだろう」
「豪礼だ。あれは僕より先に死ぬか?」
「タロットで見てやってもいいが」
「頼む」
「…………」
「おい。僕の知ってる占い方とだいぶ違うが」
「だから、適当に札をめくるだけだと言っただろう。全部並べて、適当に一枚引く。それを見るだけだ」
「……まあそれで中るなら好きにしろ」
「『恋人』正位置だな。豪礼には明るく精力的な未来がある。責任を負う立場にもなる」
「最悪の結果だな」
「お前の未来も見るか?」
「要らない。万羽を見てくれ」
「『悪魔』逆位置だ。……解放される。目を覚ます。良く解釈すればそういう意味だ」
「悪く解釈すると?」
「あれは運の強い女だから平気だろう」
「そうか。……」
「お前が使わなかった分の運は、子や孫に行くだろう」
「知ったような口を。……ついでに西帝も見てくれ」
「聞いたことのある名だ。誰だ?」
「あ? 僕がいつも連れてる眼鏡だよ。お前の従者の弟だ」
「あれか。……『女教皇』正位置だ。正しい方向を見ている。焦らないことだ」
「いずれもお前の解釈だな? ちょっとスマホでカードの意味を調べる。……」
「…………」
「『悪魔』、正位置でも逆位置でも悪い意味じゃねえか!」
「必ずしもそうではない。そもそもカードは参考にしているだけだ。さっきも言ったが、万羽は運が強い。気にすることもないだろう」
「刹那をめくってみてくれ」
「……『隠者』正位置だな」
「隠者。……孤独と思慮か。……これから孤独になるっていう意味があるか?」
「正式なタロットでどうかは知らんが、そういう印象はない」
「お前の印象の補助のためにカードめくってる以上、お前がそう言うならそうなんだろうな。……運が強いとか弱いとかは、お前の印象か」
「輪郭線が濃い」
「輪郭線?」
「万羽と――沙羅あたりは、線が濃い。守護されている」
「何にだよ」
「知らん。そういう印象があるだけだ」
「なんでこんなに非科学的で非論理的なやつが、実績を上げてるんだ。理不尽だ」
「理だけで上手く行けば、お前も楽だろうにな」
「知ったような口をきくなって言ってんだろ。邪魔したな」

「……あいつは……『吊るされた男』逆位置か。……」


「あ、なんか弥風様の匂いがする」
「犬かお前は」
「おっ、タロットですか? 良いこと出ました?」
「お前を見てやろうか」
「なんか怖いんで結構です。親父の死期とか見てください」
「さっき見た。長生きするだろうな」
「最悪だぜ」
「さっき聞いた。……豪礼も運が強い。お前にも引き継がれている」
「あー。コンビニのくじとかよく中るんですよね」
「お前は軽薄だな」
「なんで急にdisられたんですか。俺はいつもこうでしょう」
「弥風の後だとそう感じる。あれも少しは軽薄を装えたらよかろうに」
「俺たちは社会と切れた生き方ですから、努力家つうか、意志の強い方は目立ちますよね」
「社会に入ろうとする者も目立つ。祝詞を殺したのは失敗だったな。此紀はあれに育てられて、医術を学んだ。弥風の望む者を輩出するために必要な男だった」
「此紀様が亡くなったら、また摘んできた葉っぱを煎じるだけの医療レベルに戻るんですかね」
「お前の子は医術を継いでいないのか」
「そういう話は聞かんですね。ええと、誰だか若い女が、看護師の資格を持ってるって聞きましたが」
「和泉を封じたのも失敗だったな。髪が白かろうが、目が青かろうが、宣水の聡明さを継いでいる。知恵者を仕立てるなら和泉だった」
「あ、思い出した。和泉の従者ですね、看護師は」
「そうか。縁は生きているな」
「えにしですか」
「学術。探究。生きるために必要な知恵。和泉は本来、そうした縁を継いでいる」
「あの離れに閉じ込められてちゃ、それも意味ないですね」
「そうだ。弥風は自らの手で、望む未来を閉じている。……『吊るされた男』の逆位置は、出るべくして出たカードだな」
「弥風様の方針そのものは理解できますし、豪腕だと思いますがね。責めるのは酷かと」
「責めているわけではない。憐れんでいる」
「俺がわからんのは刹那様のご胸中ですが。何をしたいのやら」
「隠者は弁えている。それだけだ」
「タロットは買ってきて初めて勉強しましたが、弥風様は『吊るされた男』ですか。『皇帝』とかじゃないんですね」
「印象に合わせて選んでいるわけではない。引いた結果がそうだったというだけだ。だが、あれは皇帝ではあるまい」
「『吊るされた男』って何でしたっけ。献身とか忍耐? 合ってる気はしませんね。ユダの暗喩でしたっけ? ぎりぎり当てはまるのかな」
「どうとでも解釈できるものだ。バーナム効果という」
「うわ珍しい部類の言葉出てきた。『チョコレート』と『カード』以外のカタカナ語も発声できたんですね」
「…………」
「なんでちょっとむくれてるんですか」
「そうチョコレートばかり食っていない」
「毎日召し上がってると思いますが」
「やかましい」
「あ、カード広げてるんなら、白威の未来とか見てやってくださいよ」
「自分は嫌がるくせに、弟弟子を勝手に見るのか。……『太陽』正位置だな。満足や幸福、成功。……だが、あいつの運は強くはない。引くたびにカードも変わる」
「同じカードばっかり出ることもあるんですか」
「沙羅がときどき訪れるが、5度引いてすべて『星』正位置だった」
「んっ!? 大アルカナって22枚ですよね? 5連続の確率って、ええと」
「正位置と逆位置で倍。数で言うなら44の5乗で、おおよそ1億6千5百万分の1だ」
「ぎゃあ怖い! その超倍率、宝くじとかに活かしてほしい!」
「星という印象の女でもないがな。早くに死んだあれの父が、あれに祝福を残したのやもしれん。……麒麟児と呼ばれるだけある。あの女は特別だ。お前の言うように、沙羅が富くじを引けば中るだろうな」
「じゃあ買えばいいのに」
「2度目からは偽りの結果を伝えている」
「え、なぜですか」
「強すぎる運を持つ者は、それを知らん方がいいこともある。……運は影のようなものだ。影が濃いと、足元を固められる」
「非運でも幸運でも、どっちも道は選べないみたいな話ですか?」
「少し違う。……わからんのならそれでいい」


「未来視とは、高性能の演算だと考えられるわ。その概念を擬人化して、ラプラスの悪魔と呼ぶ。……悪魔に擬人化って、言語矛盾かしら?」
「すでに死んだ悪魔ですね」
「そう。ハイゼンベルクに殺された化石よ。和泉のほうが詳しいわね。気になるなら聞きに行きなさい」
「ですが、神無様の予知は外れたことがない、と聞きます」
「百発百中ね。ただし、一億発一億中ではないわ。仮に一億の予言を中てたとしても、一億秒を連続で中てられるわけじゃないはず。『中てられることしか中てられない』のよ。これは神無自身の証言からも確定してるわ。すべてのことがわかるわけじゃない。位置と運動を読み取れた原子についての結果のみ、神無は至るのよ」
「間違っていたら申し訳ありません。此紀様はこの件について、アインシュタイン側を支持しておられると感じるのですが」
「心情的にはそうよ。神はサイコロを振らないし、完成度の高い者にランダマイザーは搭載されていない。あたしは和泉と対立して論破されたけど、うちのスパコンこと神無があたしの味方よ。もっとも――」
「和泉様と相容れないわけでもありませんね。さきほど此紀様がおっしゃったように、読み取れた結果についてのみ語るスパコンであるなら」
「そう。和泉は、スパコンが語り逃す間隙部分を突いてくるからね。勝てないわよ。少なくとも、現代ではまだ」
「此紀様側に論拠の提出・立証責任があるのでは」
「あるけど、ない袖だから振れないのよ。だから和泉に負けるのよ」
「…………」
「卑怯だと思ってるんでしょうけど、あんたは宇宙人否定論者?」
「ん、……あ。……いえ。……」
「現行のスパコンは圧倒的にスペックが足りないのよ。宇宙は確実に存在してるのに、まったく手が届いていないように」
「運勢や運命は、原子運動の軌跡ですか」
「44種類のカードから、5連続で同じものを引いても、不思議なことではないのよ。不思議なように見えるだけ」
「いくつ掛けても、確率がゼロになることはありませんからね」
「不思議ではないからこそ。沙羅は1億以上の倍率を突破する力を確実に有している、とも言えるわ。次の5回が全部外れようが、すでに5連続で引いた事実は覆らない」
「外的要因――たとえばそのカードに傷がついていて、神無様が無意識にその『傷カード』を引きに行く、というようなことがあったとしても、そこまで含めて、沙羅さんの結果ということですね」
「もちろん。外的要因こそが、運勢の正体の大部分よ。そう見えないものは、運とは呼ばれないでしょ」
「神無様も同じお考えなのですか」
「わからないわ。神無は無口だから」
「重要なサンプルなのに……」
「因果律をファンタジックに解釈するなら、無口だから、重要なサンプルに選ばれたんじゃないの? あたしがラプラスの悪魔なら、巫女には無口なのを選ぶわ。発見された悪魔は駆逐されるのが世の常だもの」
「……6回連続で同じカードが出る確率は、70億分の1ですね」
「そうね。……運の良し悪しは総じて結果論だけど、追い風や向かい風は、えてして当事者が勝手に感じるものだから、過去の実績によって未来の成功率が上がることもありうるわね」
「自信がつけばうまくいく、と」
「シンプルに言えばそうね。もっとも沙羅のカードについては、運命確定装置は神無なわけだから、沙羅軸の自信は――直接的には無関係と思われるわけだけど」
「無関係だ、とは言い切らないのですか」
「沙羅の自信が神無軸の原子運動に影響を与えない、とは言い切れないもの」
「――発生源と影響先が乖離していませんか? 自信によって成功率が上がるのは、スポーツだとか、そういった自己暗示が有効な分野であって、占い師が44種のカードから1枚を引き続ける確率に、占われる者の自信が影響するとは――」
「火事場の馬鹿力はリミッターの解除だけど、自信というものから原子操作オーラが出ていないとは言い切れないわ」
「原子操作オーラて」
「鉄の船が空を飛ぶように、焚き火が雨雲を呼ぶように、風が吹けば桶屋が儲かるように。自信が同じカードを引かせるのかも知れない。未来のアインシュタインに期待しましょう」






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